Carefree Field

その祖母はこれまた士族の祖父と結婚した。祖父は剣道をやっていた。
残っている写真には剣道着で正座している姿がある。
確かに祖父は当時の人としては背が高く、いつも背筋をぴんとしてた
のが印象的だった。
実は祖母と祖父はある時期から別居状態だった。祖父はずっと田舎
にいた。祖母は親父がある時期千葉に引き取ったのだ。
祖母はまったく寂しがりもしなかった。今の時代ならとっくに離婚だろう。
祖母はどこかで祖父を憎んでいたと思う。

明治生まれの女性にとって料理は、なにかしら普通に作れるもの
だろうが祖母はまったく料理と言うものを作れない。包丁さばきも上手くない。
何故か不思議だったが、おそらく料理をしない環境にいたのだろうと思う。
だが、私が物心がついてずっと亡くなるまで見てきた祖母は貧乏人。
借金まみれで、私たち家族にまで迷惑をかけてきた。だが仕事だけは
まじめにやってきた。なのに貧乏人なのだ。その人間の唯一の誇りとも言える
のが士族なのだ。祖母は自分の昔話をあまりしない。何故したがらないのか
その辺りは良く分からない。だが、機嫌が良い時に思い出話をすることがある。

子供だった私が「どんな家に住んでいたの？」と聞くと、広い庭がって
鎧や刀が飾ってあったそうだ。私が「それはどうなったの？」
と聞くと、いつもその先は「しらん！」と、言いたがらない。本当に知らないのか
とぼけているのか分からない。私が冗談で「借金のかたに取られちまった
んじゃないの？」と言うと猛烈に怒るのだ。
多分少なくとも幼少の頃はお嬢さんだったのかもしれない。
まぁ、これも良くわからない。ただ士族だった事だけは事実なのだ。

天皇家に男子が誕生した。
日本人のアイデンティティと死んだ祖母のそれと同じなのだろうか・・・。
生前祖母は美智子様のことを平気で平民と呼んでいた。
明治生まれの人間にとってなおかつ士族である自分とは違うと、どこかで
思っていたのだろうか。昭和天皇とほぼ同じ年齢の祖母は士族としての
プライドは高かったようだ。そんなことよりあれば財産を沢山残してくれれば
良かったと私は思うのだが・・・（笑）